きのくに散策

第十回 松下幸之助翁生誕の地


きのくに散策の企画を始めたときから、一度は取り上げたい、取り上げねばならないとずっと考えていたのが、松下幸之助氏生誕の地であり、永眠の地でもある、和歌山市の松下公園一帯の紹介である。
いよいよこの10月から、松下電器、ナショナルの名が無くなるという今を機会に、この地を訪れることにした。

 恥ずかしながら私自身、松下電器商学院に学ばせていただき、また永年、地元和歌山の地で、ナショナルの看板を揚げて商売をさせていただいていながら、そうした想いを持ってこの地を訪れたことは一度も無かった。

 この度初めて、幸之助翁の墓前に手を合わせて、今日までの報告と感謝の意を伝え、また無沙汰の非礼を詫びることが出来たことは大きな喜びであった。

   
 
松下家墓所
 
 
  国内には、松下、ナショナルの名が消えることを惜しむ声はまだ多い。特に年配の人にとってはいまだに“ナショナルのテレビ”というイメージである。
 しかし「個人のノスタルジーよりも、より大きな成長をするためのパナソニックを選んだ。断腸の思いはあるけれども、松下の発展に繋がる決断であると信じている」と語る大坪社長の決断を私は支持したい。

 私たちは幸之助氏から“企業は社会の公器”と教わった。そんな氏であるから、もし今現役で居られても、国際企業としての発展との引換えになるなら、創業家の名を消すことも決して厭う事は無いとおっしゃるであろう。

 ただ“多国籍企業”にはなっても、“無国籍企業”にはならないでほしいと私は望む。人でも企業でも “国際標準” “世界市民”的感覚しか持たぬものは、しょせん根無し草でしかない。松下電器の理念、創業者の理念とは、あくまで我国の伝統風土に根ざした、日本的価値観から生まれたものであり、その理念を一つ一つの商品に載せて、広く異文化世界に発信することで成長してきたのが、今日までの松下電器である。綱領に謳う「世界文化ノ進展ニ寄与」するとはそういうことであろう。

 大坪社長の言われる「グローバルエクセレンス」という言葉がどういうものか私には解りにくいが、おそらく同じ思いであると信じる。どうかパナソニックには、国際標準に合わせる企業でなく、国際標準を合わさせる企業であって欲しい。世界に誇る日本のパナソニックであって欲しいと願うのみである。

松下電器綱領
 
 話は突然変わる。今回の記事を書くにあたり、私は生誕の地を3回訪れたが、いつもこの地を清掃、手入れしてくれている、一人の年配の男性がいることに気付いた。一度目は、「ご苦労様やなあ!」くらいにしか思わなかったが、二度目には業界関係者のはしくれとしてちょっと「申し訳ない」気分になり、三度目にお見かけした時、思い切って声を掛けさせていただき、私がナショナルの電気店であることを紹介すると、御自身のことを紹介していただいた。

 お名前は岩倉克年氏、尊敬する松下幸之助氏の生誕の地を少しでも良くするために自分が出来ることは何かと考え、自身が“掃除に学ぶ会”〈イエローハット相談役鍵山秀三郎氏の主催する組織〉で身に着けた技と心でこの地を少しでも美しくすることを御自身の精神修養の一環としてなされているという事や、語り部として訪れる人に、この地の紹介をされていること、またこの地を和歌山の観光地のひとつに育てたいという思いを持っておられること、今年11月27日には生誕祭を行いたいと計画していることなどなど、いろいろなお話を聞かせていただき、私が組合HPと機関紙への寄稿を依頼すると、突然のぶしつけなお願いにも関わらず、快く応じていただいた。

 氏の想いに心から感謝し、次ページにその原稿を掲載させていただく。御一読の上、また氏のHP “無学求道” も開いてみてもらえれば幸いです。

墓前にて
左奥が岩倉氏

生誕碑前で
右端が岩倉氏
 
 今回の企画に当たり、松下幸之助翁の幼少時代の紹介や、それが後の氏の人生観や経営観に与えた影響などについて考察するつもりであった。しかし岩倉氏に出会い、お話を伺ううちに、地元の松下関係者の一人として、この地を省みることも無く、また氏のような方々の存在すら知らなかったことが、申し訳ないような、恥ずかしいような思いに苛まれ、当初考えていたようなことを語ることがはばかられる想いになった。「電池工業の労組の人たちが定期的に、この地の清掃に訪れてくれている」という話をお聞きした時は少し救われた思いであった。

 地元で、ナショナルの看板を揚げて商売させていただいている自分が、何か少しでもこの地のために出来ることをさせていただかねば申し訳ない。今そういう強い思いに駆られている。小さなことでも、継続的にやれることでなければならない。もしこのつたない記事を読んで、少しでも思いを共有していただける有志の方が居られたら、私どもにお声掛け下さい。直接でも、組合事務局を通していただいても結構です。何か出来そうなことがないか考え、共に少しずつでも始めていきたいと思います。


以下、岩倉克年氏に頂いた原稿を紹介します



生誕の地の掃除と語り部のボランティア

 私は松下幸之助生誕の地を守る会として、2007年12月中頃から生誕の地の掃除と語り部を始めました。月・火曜日が定休日です。

         掃除にこだわる理由

 私は「頼りない自分」がいやで、何とかしようと、若い頃からずっと自己啓発の方法を探してきました。読書で何とかなるかなと思ったのですが、私の場合、何ともならなかったのです。

 結局行き着いたのが自分の部屋でする坐禅です。やってみると案外面白いので続くし、「悟りやすい体質」なのか大変早く悟りに入れるのです。  2002年2月に私にとって3回目の悟りに入ることができました。良い本と出会うことができて、今も順調に「悟りの道」を進んでいます。

 一昨年幸之助さんの「素直な心になるために」を読んで、彼の悟りの深さに驚きました。素直な心というのは幸之助さんが悟りの心を言い換えたものです。幸之助さんが確かに「悟った人である」ことと、瞑想という「悟った方法」がはっきりしていることで幸之助さんを崇拝するようになりました。

 掃除に学ぶ会で身に付けたトイレ掃除の方法を活かして、幸之助さんを顕彰するためにボランティアを始めました。トイレがきれいになると公園の草を刈りました。一通り刈り終わったのは春のお彼岸前です。その頃から急に草が伸び始めて、以来草刈に追われて現在に至っています。

 この地は、松下電気関係の方々や幸之助さんを慕う人たちなど大勢お見えになります。特に県外の方が多いのです。

 語り部は私の「元気と幸福」を皆さんにお分けするように心がけています。若い人には教育的になったりします。拙い説明でも喜んでくれています。

          私の夢と希望 

 生誕の地をPRして観光地化すること。NPO・生誕の地を守る会としてボランティア募集中です。草刈り、広報、役所などとの交渉、いろいろ手伝ってくれる人を探しています。

          今秋生誕祭をする予定

 第一回 松下幸之助生誕祭in和歌山市

  日時 平成20年11月27日(木) 場所 和歌山市千旦 和佐遊園

  主催 松下幸之助生誕の地を守る会 後援・共催   未定

 私としては初めてのことなので、数名の参加でよいと考えています。

 状況により変更あり。今のところ生誕祭をすること以外は全て未定です。

      無学求道(むがくきゅうどう)のPR

 インターネット検索でたくさんのホームページを見ていただけます。私のページは全て体験談です。優良な本を参考文献として紹介しています。テーマは人間的成長ですが、幸之助さんの方法も取り入れています。

         夢と希望 U

@本の出版。今はとりあえずパンフレット出版

A人間塾開講。今のところ講師内容は人間関係や問題解決の能力の向上

      NPO・松下幸之助生誕の地を守る会 世話人 岩倉克年



“松下幸之助君生誕の地”の石碑 
碑文は湯川秀樹博士による

松下性のいわれとなった
生家の樹齢八百年の松
昭和41年の落雷でこんな
姿となってしまったが

その根元には新しい芽が
生まれていた
パナソニックの松か!?