きのくに散策

第八回 日本一のミニ私鉄 紀州鉄道

紀州鉄道ってご存知ですか?
 紀州鉄道。その存在を知らない、特に他府県の人が、その名称から抱くイメージは、さしずめ和歌山から新宮辺りまで繋がっている鉄道、といった処か。
 ところが実際は、そんなイメージとは程遠い、JRの御坊駅と御坊市内を結ぶだけの、総延長わずかに2.7Kmという、超ミニ私鉄である。2.7Kmといえばほぼ一般的な鉄道の一駅間くらいの距離。
(ちなみにJRきのくに線の平均駅間距離は3.8Kmくらいあるらしい)


     
                

 そんな地方の零細私鉄と聞けば、次に抱くのは、累積赤字を抱えていつ廃業になってもおかしくないローカル線・・・・・というイメージであるが、どうもそうでも無さそうである。
 ためしにインターネットで“紀州鉄道”と検索すると、全国のリゾート施設やホテルが続々と出てくる。いったい何なんだ、この会社は?

 昭和47年、事業存続の危機にあった“御坊臨港鉄道”を、鉄道事業者の看板を求めた不動産会社が買収、翌年事業譲渡の形で、現在の紀州鉄道という社名になったようである。個人的に、この会社の懐ぐあいに興味はないし、また特に鉄道マニアというわけでもないが、和歌山県人として、一度はこの鉄道に乗ってみようとの思いに駆られ、訪ねてみることにした。

 JR御坊駅にはなんと“0番ホーム”というのがあり、ここが紀州鉄道の一方の起点である。なぜ0番なのか解らないが、なんとなく継子扱いされながらも、けなげに頑張っているような気がして、より愛おしくなる。“頑張れ、紀州鉄道!”
 この日運行していたのは“キハ603型”という昭和35年製造のディーゼルカー。隣のホームのJRの電車と比べるといかにもミニサイズ。
 車内灯は白熱灯で、床は板張り。当然冷房などという野暮なものは無い。窓開けて走れば自然の風が入るんじゃ!

御坊駅0番ホーム

隣はJRの列車

キハ603運転席

同車内(西御坊駅

 ホームでは、多分大阪あたりから来たのであろう家族連れが記念撮影。あと、いかにも鉄道オタクといった感じの人の姿もチラホラ。(おそらくは他から見れば私もそんな一人に見られたかも?)

 まもなく発車時刻となる。ホームを離れるとすぐに、直進するJR線と別れ左に大きくカーブを取って御坊の街中へと入って行く。その速度たるやわずか20数キロ。ガタゴトと車体をきしませながら、のんびり行く。
“まあ急ぐ旅でもないさ!”
 それでも「学門」「紀伊御坊」「市役所前」と3駅を経由しながら、8分後には終点「西御坊」駅に到着する。つかの間の列車の旅である。

沿線地図

JR御坊駅

学門駅

紀伊御坊駅

市役所前駅

西御坊駅
 
 今はここで終点であるが、見れば雑草に覆われた中に線路はまだ先に続いている。それをたどってしばらく歩いてゆくと、日高川の河口、天田橋のふもとに出る。平成元年に廃止になるまで、ここが紀州鉄道の終点「日高川駅」であったと言う。日高港と結ぶこの駅は、往時は木材や繊維関連の貨物が行き交う、物流の拠点であったらしい。夏草に覆われた廃駅跡は、まさにつわものどもが夢のあとと言う趣である。

ここで終点だが

線路をたどると

旧日高川駅跡

 西御坊駅からすこし東に入ってゆくと、本願寺日高別院(日高御坊)を中心とした寺内町と言う古い街並みが広がっている。
 戦国の時代から、酒や醤油蔵、廻船問屋などが軒を連ねていたところで、御坊と言う街の由来は、この日高御坊から来ていると言う。


日高御坊

寺内町街並
 紀州鉄道のちょうど中間点に当たる「紀伊御坊駅」は沿線で唯一の有人駅で、営業所、車庫などの機能はすべてこの駅に集約されている。
紀州鉄道事務所

引退車両(予備車両?)と車両庫
 またここでは、さまざまな記念グッズや、記念切符などの販売もされている。なかでも合格祈願のお守り「学門駅入場券」は、JR四国の学駅、南海高野線の学文路駅入場券と並び受験生の人気を集め、また開業50周年記念に、道成寺と協賛で、昭和53年から販売されている「開運釣鐘乗車券(喜集幸運)」は、全国の鉄道マニアや、コレクターから注目されて、かなりの売上げを得ているようである。また紀州鉄道のラベルをあしらったワインやビールから、最近すっかり見かけなくなったテレホンカードまで販売されており、リゾートや不動産部門にもたれずに、なんとか自分たちの手ですこしでも利益を上げようという思いを感じる。

開運釣鐘乗車券(喜集幸運)

紀州鉄道ビール
 先ほど紹介したように、私が訪れた日は“キハ603型”が運行していたが、紀州鉄道では毎週、金〜日曜日にはこの“キハ603型”が、月〜木曜日には“キテツ-1型”という新型車両が運行しているという。にわか鉄道オタクとしては、せっかくここまで来たのだから、どうしても“キテツ-1型”も見ておきたい。今日はこの駅の車庫に眠っているはずである。そこで、駅員さんに“見せてもらえませんか?”とお願いすると(もちろん先に記念グッズを買ってから)快く車庫に案内していただけた。(JRや大手の私鉄ではこうはいかんやろうな)
 案内していただいた“キテツ-1型”は平成12年から運行を開始した、レールバスと云う、早い話、列車のシャーシにバスのボディーを乗せたもの。もちろん冷暖房完備で乗り心地も良く、当然燃費も良いという。なるほど言われてみれば車輪の上の姿はバスである。それにしても・・・・・・・目に飛び込んでくるのは、ボディー一面に描かれたパチンコ屋のド派手な看板広告!インターネットで見た時は白地に青と赤のストライプのデザインであったが・・・・、まあこれも企業努力の一環として仕方ないか。ともかく見せていただいてありがとうございました。

車庫が開いて

ありがとう

中に入ると

ハデ〜!

 企業努力といえば、紀州鉄道では御坊駅を発着するJRのダイヤに合わせて、ほぼ30分間隔で、毎日26往復も運行している。もちろん乗客0人でも。一見のんびり気楽に走っているようであるが、一両の車両でこの間隔で運行するのはかなりハードである。終点についても休む間もなく数分後にはすぐ折り返し発車。一日中この繰り返しである。
 全く頭の下がる思いである。御坊市民の足として、また中紀観光の目玉として、いつまでも走り続けてほしいものである。

終点に着いても

すぐ折り返し

出発進行

今日も行く

道成寺と髪長姫伝承へ続く